写真・川上信也/文・嶋田絵里

 都会にもオアシスがある。木々に囲まれた鎮守の杜だ。境内に入ると、通りの喧噪から遮断され、静寂が訪れる。博多駅から約1キロの住吉神社(福岡市博多区)もそんな都会のオアシスの一つ。癒しを求め、人だけでなく鳥や虫たちも集まる。
 この住吉神社にほど近い自宅の庭で在来種ニホンミツバチの養蜂を行っているのが吉田倫子さん[NPO法人博多ミツバチプロジェクト理事長]。養蜂業を始めたのは2018年。今年の5月で5年目になる。
 きっかけは、服飾品を販売する店舗を開こうと自宅の蔵を改装した際、施工業者に言われた一言だったそう。
 「当時、誰も使っていなくてボロボロだった古い蔵を改装してもらうとき、庭に入った施工業者さんが、ここの環境は養蜂に向いていますよと言ったんです」
 そう話した人も大川市でニホンミツバチの養蜂業を営んでおり、その人からハチの1群を分けてもらい半信半疑でハチを飼ってみることにしたという。
 「まず、西洋ミツバチではなくニホンミツバチを飼う、ということに興味があって始めてみようと思いました。ここは、バスなどが通る住吉通りから少し入った場所にあり、意外と静かなんです。のちにわかったことですが、ハチは静かな環境を好み、ニホンミツバチは樹木の花の蜜が好きなので近くに住吉神社の木々があったこともよかったみたいです」
 西洋ミツバチと違い、ニホンミツバチは気に入らないと巣箱から出ていくことが多く、そのような採蜜の生産性の低さから養蜂業、個体数とも明治以降に入ってきた西洋ミツバチにとってかわられた。
 「また福岡市の一人一花運動や地域住民の方々の花壇の設置など、福岡市は街に花が多くあり、都市型養蜂を行う場所として適しています」
 始めたころは1群3千匹だったニホンミツバチは、いま10万匹に増えている。
 「昨年からは、屋上で養蜂を始めたいというビルオーナーにハチを譲ったり、逆に屋上を借りてそこでも養蜂しています。また今年スタートしたのは、福岡市植物園にニホンミツバチの巣箱を置くプロジェクトです」
 虫や鳥など、人間以外の生きものと共存するのがほんらいの人の暮らしの営みでは、と話す吉田さん。子どもたちにも他者と共存できる未来を描いてほしいと、ハチの花粉媒介者としての役割などを話す講座も行っていきたいという。
「住吉神社とニホンミツバチ」 養蜂家・吉田倫子さん

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