写真・川上信也/文・嶋田絵里

 福岡県糟屋郡宇美町の宇美八幡宮のお膝元で江戸時代から続く小林酒造本店。福岡の酒「萬代」で知られている。ここでも、木枯らしが吹き始める11月後半から酒造りが始まる。その多忙と緊張の間を縫うようにして「酒樽の菰巻き」がつづけられる。酒造りの準備から醸造、出荷まで全工程にちりばめられた、さまざまな伝統技術の中の一つである。菰巻きされた酒樽は、さまざまな祝賀会や結婚披露宴など鏡開きのあるお祝いの催事にしばしば登場する。大相撲九州場所でも、各酒造メーカーの菰巻き酒樽が段重ねの威容を誇る。
 小林酒造で伝統を受け継いでいるのは、入社2年目の若手社員の安藤陸さん(19)と市丸佳菜絵さん(19)。先輩の指導を受け、1年間で菰巻きの作業を任されるようになった。
 「昔は、酒造りをする男の人はみんな菰巻きができました。若い人にも伝統的なものを覚えてもらおうと菰巻きに取り組んでもらい、これまで二人はそれぞれ50樽くらい巻いて技術を身に付けました」(小林酒造本店、三浦正満業務部長)
 酒樽を船で運んでいた時代、緩衝材の役割に酒樽の胴回りを藁束できっちり巻き、その上から酒の銘柄と酒造元を大書した菰を被せ、細縄・太縄で締めととのえ、催事がよりはなやぐように見栄えよく飾り立てた。この菰の巻きかたに伝統が受け継がれている。
 樽は大きいものだと酒4斗(72リットル)が入り、木樽の重さを合わせると90キロ近くになる。その樽を転がしながら倒したり起こしたりして菰を巻き付け、「針」といわれる道具を使って細縄で縫い止め太縄を結ぶ。鉢巻(横紐)で太縄がずれないように固定しながら、上下の包み目を菊の花のように整えたら完成。結び目はすべて、緩まない男結びにする。
 宇美川沿いにある小林酒造本店の創業は寛政4年(1792)。200年以上にわたって、背後につらなる三郡山系からもたらされる伏流水と地元産の酒米で福岡の酒を醸してきた。菰巻きに取り組む若い二人も、酒造りの深くて広い伝統の一端にかかわっている。自分たちの手で菰を巻いた酒樽の鏡開きに立ち会うとき、威勢のよい掛け声に誇らしい気持ちを込めて唱和することだろう。


「祝祭に立ち会う酒樽のはなやぎ」菰巻き 市丸佳菜絵さん/安藤陸さん

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