写真・川上信也/文・嶋田絵里

 深い藍色の着物の背に光が差し十字が浮かび上がる。
 絵画的なこの作品は、甘木絞り作家・中村美香さんの第52回福岡市美術展特別賞受賞作品である。
 甘木絞りは、江戸時代に始まり、明治10年開催の内国勧業博覧会資料には博多・甘木絞りの年生産額が全国一と書かれるほどで、大正時代は韓国、台湾まで販路を拡大し栄えた。甘木で絞り染めが一大産業となったのは、カルスト地形の古処山を源とする甘木川(小石原川)の水が石灰質を含んでおり、木綿の晒しに適していたということがあるだろう。
 戦後は、産業として途絶えた甘木絞りだったが、地元の有志が技術を伝承し、保存会や継承グループを立ち上げつないできた。その継承グループのひとつに属し、技術を継承しているのが中村美香さんだ。
 中村さんは、東京の大学の芸術学科で美学や美術史を専攻、のちに居住したインドでブロック(木版)プリントに出合い惹かれ、今度は染織を学ぶため多摩美術大学に入学した。2017年、たまたま目にした「甘木絞り伝承者育成講座」で甘木絞りを知り受講。いまも福岡市内から週に一度、甘木に通い甘木絞りの先輩作家たちと技術を鍛錬している。
 「今回の作品もそうですが、甘木絞りの特徴は絵画的だと言われます。図柄の緻密な設計図をつくり、鹿の子絞り、巻き上げ絞りなどでさまざまな絵を描きます」
 鹿の子絞りとは、布地を少しつまんで糸で括り染色すると糸のところだけ布地が染まらず小さな白い円となる。これが鹿の背中の模様に似ているため鹿の子絞りと呼ばれ、この小さな円をいくつも作り絵の輪郭を描く。巻き上げ絞りは、染めたくない部分の縁を糸で縫ったあと、糸を引っ張ることで布を一か所に集め、集めた布地を糸できつく巻き上げることで防染する。
 「図案を作成し、木綿の布に絞りの作業をし、藍染めして仕立てるまで3カ月かけて制作しました。この深い藍色を出すために27回染めています」
 何度も染めることで、この深く濃い藍色と白のコントラストが生きてくる。また、糸をいつほどくかによって、図柄に濃淡をつけることができるのも、巻き上げ絞りのおもしろさだ。
 「同じデザインだとしても、それぞれ模様の出方が違って一つとして同じ巻き上げの表情がないところが魅力ですね。これから夏に向かっては、自宅の庭で栽培しているタデアイの生葉をつかったこの時期しかできない染めをする予定です。うすい緑の色がきれいなんですよ」
 現在、スクモの発酵建てにも挑戦中で、ゆくゆくはその藍で染めた作品を完成させたいそうだ。

*参考文献「甘木絞り」(甘木歴史資料館)
「絞りがつくる藍の中の光」甘木絞り・中村美香さん

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