写真・川上信也/文・嶋田絵里
菊池川流域・豊前街道の宿場町であった湯のまち・山鹿(熊本県山鹿市)は、交通の要衝で、昔から人と物が行き交う場所。近代は、養蚕・製糸生産などで栄え、近年は、国重要文化財・八千代座や温泉などの観光業で賑わっている。
その山鹿で山鹿ローカルジーンズを製造販売するのが、グラファス・ネグラス(スペイン語で黒メガネ)の関口和良さん(43)だ。2018年、関口さんは、山鹿温泉旅館・清流荘の平井英智社長と前田畳店の前田昌宏さんと3人で、ジーンズの会社を起ち上げた。
「灯篭祭りなどの地域活動を一緒に行っているときに、山鹿で何かおもしろいことができないかという話になって、当時、熊本県内のジーンズ製造工場の会社とご縁をいただいたこともあり、ジーンズを作って販売しようと。それを穿いて山鹿の街を観光したお客さんが、お得なサービスが受けられたら、販売と地域おこし両方できると考えたんです」
最初は、生地の製造も山鹿でと考えたが、デニム生地は岡山から仕入れ、裁断、縫製、洗い、仕上げまでを山鹿で行うことにした。ノリをとるための洗いでは、山鹿の温泉水を利用している。
「ジーンズウォッシュでアルカリ鉱物を入れて洗う方法があります。山鹿の温泉は、温度37、8度のアルカリ泉です。アルカリ性であることと湯温が高くないことが、ジーンズを洗うのに向いていると思い、これを山鹿ジーンズの特徴の一つにしようと考えました」
ジーンズの購入者としては、当初、自分たちより年上の、今まであまりジーンズを穿いてこなかった年齢層を対象にした。
「おとなの男の人が、ジーンズを格好良く着こなしてくれたらいいなと思いました。初めてジーンズを穿く人のために、ノリを洗って柔らかくし、形も細身のスキニーデニムではなく、定番のストレートにしました。温泉街でのジーンズづくりに興味を持たれたのか、始めてすぐ多くのメディアに取り上げてもらいました。それでジーンズ好きの人たちから問い合わせがあり、福岡や九州、山口からも買いにこられました」
人気が広がり、年間500本近くの販売がある。今は山鹿に直接来てもらって販売しているが、今後はネット販売や福岡など他県での販売も視野に入れている。
「ジーンズづくりを始める前は、私もジーンズを穿いたことは、ほぼありませんでした。だからやりながら学び、お客さんに教えてもらいながら、より良いものに改良しています」
3人で始めたジーンズづくり。平井さんと前田さんは本業に戻り、孤軍奮闘の関口さんだが、奥深いジーンズに魅了され、ますます新たな展開に力が入るようだ。
「インディゴの魅力・山鹿ローカルジーンズ」 関口和良さん